大阪高等裁判所 昭和28年(う)1949号 判決
先ず被告人中川宗夫の控訴趣意について審案するに、原判決挙示の証拠を総合すると、その摘示の如く、同被告人が(一)営利の目的を以つて昭和二八年六月二日大阪市西成区山王町三丁目五九番地生田作次郎方の同被告人の居室で被告人朴実京に対し麻薬である塩酸ジアセチルモルヒネ一包〇、〇七瓦を代金四〇〇円で譲渡し、(二)営利の目的を以つて同日同所で麻薬である塩酸ジアセチルモルヒネ硫酸紙包一包〇、四瓦煙草ピース半函入りの中に二包〇、一九瓦(原判決に〇、〇一九瓦とあるのは誤記と認める)同様半函入りの中に一〇包〇、二一四瓦を所持し、(三)同日同所において、石原初一に対し麻薬である塩酸ジアセチルモルヒネ一包〇、一五五瓦を譲渡した事実を認めるに十分であつて、記録を精査しても所論のように被告人中川宗夫の検察官等に対する供述や原審公判廷における供述が虚偽のものであり、従つて原判決の右認定が真実に符合しないものであることを首肯するに足る証跡を発見し難い。そして原判決が同被告人は常習として前記三個の違反行為をなしたものであると判示したのは、医師岡村富造の原審における証言のみによつたものではなく、同被告人の麻薬取締官及び副検事に対する各第一回供述調書や原審公判廷における供述をも事実認定の資料として掲げていることから観ると、これらの証拠によつて認め得べき、同被告人が昭和二八年五月中旬頃台湾人王某からペー(塩酸ジアモチルモルヒネの通称名)を売つて見ないかと勧められ、二瓦を三、六〇〇円で買受け、本件犯行日までに、そのうち約一瓦を小分けして有償又は無償で譲渡し、又は自ら施用した事実と相俟つて本件麻薬(前記麻薬の残量)の譲渡及び所持を常習に出でたるものと認定した趣旨であることを窺知し得べく、記録上この点に関しても誤認の疑は存しない。それ故に被告人の主張はいずれも採用するに由なきものである。しかし職権を以つて調査するに、原判決は前段掲記の如く、同被告人が常習として(一)営利の目的を以つて麻薬たる塩酸ジアセチルモルヒネ〇、〇七瓦を譲渡し(二)営利の目的を以つて右麻薬〇、八〇四瓦を所持し(三)右麻薬の〇、一五五瓦を無償で譲渡したとの三個の犯罪行為の成立を認め、右(一)(二)は麻薬取締法第六七条第二項第六六条第六四条第一項第一二条第一項に(三)は同法第六七条第一項第六四条第一項第一二条第一項に該当し、右三者は刑法第四五条前段の併合罪の関係にある旨判示しているけれども、常習として麻薬取締法第六四条第一項の違反行為をなした者の数個の行為は、それ自体右違反行為をなす習癖の表現とみるべきものであるから、全体として一個の犯罪行為を構成し、各別に犯罪が成立するものと解すべきでないとともに、右数個の行為中同法第六七条第一項と第二項の行為とが存在する場合は、一罪として情状の重い第二項の刑に従うべきものと解すべきであるから、この点において原判決は法令の適用を誤つたものであつて、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、とうてい破棄を免れない。